しかし考えてみると、これは恐るべきことだ。アメリカではVCに資金量の何倍ものベンチャーが申し込み、それを審査して投資するのが当たり前だ。ところが日本では逆に、私のような個人にVCのほうから連絡してくる。日本では、それほど投資機会が枯渇しているのだろうか。前にも紹介した磯崎さんの記事によると、日本のVCの資金量� �1兆円と、個人金融資産のわずか1/1500だという。
創造的に問題を解決するために何かを教えるためにどのように
日本経済の最大の病は、需要不足でもクレジットクランチでもなく、この投資機会の不足である。このため慢性的に資金が供給過剰になって自然利子率が負になり、デフレになる。自然率は(定義によって)マクロ政策で変えることはできない。それを高めるには、ケインズのいうanimal spiritsを高めてリスクテイクを増やす環境をつくるしかない。
リスクテイクというのは、単に冒険することではない。たとえばオプションを買う投資家はリスクをヘッジするが、そのためにはオプションを売る企業がいなければならない。この場合、売り手はオプション(一般的には条件つき請求権)を売ってリスクを買う。つまりリスクより高い価格で証券を売ってもうけるのがリスクテイクである。資金的にはゼロサム・ゲームにすぎない金融市場によって利益が生み出されるのは、こうしたリスクの効率的配分によって異時点間の資源配分が効率化されるからだ。
ブロッホ失語症
今年の経済財政白書のテーマも、リスクテイクだ。図のように、起業家が多い国ほど成長率も高い(もちろんアイスランドのようにリスクも高いが)。ところが日本は、リスクヘッジする預金者ばかりで、リスクテイクする起業家がいないため、リスクの価格である金利がゼロに張り付く。
したがって日本経済にとって重要なのは、リスクテイカーを増やしてリスクの配分を効率化することだが、これは容易ではない。今回の金融危機の原因は、投資銀行が過剰にリスクを取った(というかtail riskを無視した)ことだが、リスクの取り過ぎを改めるのは、元気のよすぎる子供をおとなしくさせるようなもので、それほどむずかしくない。「引きこもり」の子供を元気にするほうが、はるかにむずかしい。
この問題は、教室内で何を解決すること
トヨタに代表される日本の多重下請け構造は、リスクを系列全体でプールし、不景気になったら下請けや臨時工を切ることによって本体が生き延びるシステムである。ここでは下請けがバッファの機能を果たして、リスクテイクしている。世の中では、不況になると「中小企業がかわいそうだ」というが、好況のとき彼らの収益率が親会社よりはるかに高いことは誰もいわない。
ただ、あまり無慈悲に下請けを切ると好況になっても戻ってこないので、系列という長期的関係の中で親会社も一定のリスクを負担する均衡が成立している(Kawasaki-McMillan)。しかしこうした長期的関係は、それを裏切ることによる短期的な利益が大きくなると� �維持できない。今回の危機は、系列構造の崩壊をもたらす可能性が強い。
したがって好むと好まざるとにかかわらず、日本の企業間関係はドライな戦略的関係にならざるをえないだろう。グローバル市場のリスクは系列でシェアするには大きすぎるので、水平分業でリスクを売り切るほうが賢明だ。この場合、リスクを買う部門がハイリターンの成長産業なので、こうしたエンジンをもっている国が成長する。
日本人にはそういう産業は向いていないので、図のようにローリスク・ローリターンに特化するというのも一つの選択だが、全体のパイが大きくならないと再分配や「格差」をめぐる紛争が多発して、かえって不安な社会になるだろう。リスクテイクのしくみを作らないかぎり、縮小均衡と財政破綻はまぬがれない。
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